ADL「Experience API (xAPI) 標準」抄訳

xAPI は、人の学習やパフォーマンスに関するあらゆる「経験データ」を記録・共有するための標準です。学習分析と組み合わせることで、xAPI は教育・研修の実施・管理、そして測定方法に革命をもたらすことが期待されます。xAPI は、ほぼあらゆる教育テクノロジーに組み込むことができ、配信される学習コンテンツの種類に依存しません。これはオープンソースで提供されています。

概要

「xAPI の「x」は Experience = 経験を表します。ソフトウェアにおいて「API」は、2 つ以上のアプリケーションが相互にデータを交換することを可能にします。教育とトレーニングのテクノロジー分野では、「API」は学習者や学習活動に関するデータを共有するために用いられます。したがって、xAPI は学習者の行動やパフォーマンスに関するデータの相互運用性を確保するために設計された特別な標準規格です。

xAPI は従来の eラーニングに限らず、OJT、ゲーム、シミュレーション、モバイル・ウェアラブル機器など、多様な学習経験を記録可能です。これにより学習活動の相互運用性が確保され、LRS(Learning Record Store)を介してデータを保存・管理します。


xAPI の歴史

2008年、次世代 SCORM要件を調査するために「学習・教育・トレーニングシステム相互運用性(LETSI)連盟」が設立されました。
2010年に ADL は新たなデバイスやテクノロジーをサポートできる経験履歴機能の調査を開始。ここでは、従来ベースの、コースの修了・テストのスコア・学習者の閲覧ページ数といった情報以上のものであるべきとされ、より生産性やパフォーマンス指標と相関分析することができる、あらゆる種類の学習活動データが提供されるべきであるとされました。
2011年、ADL はラスティシィ社と契約し、ここで取り組まれた「Tin Can プロジェクト」が xAPI の初期デザインとなりました。
その後、ADL は、これを成熟化させて、2013年に xAPI バージョン1.0 が正式リリースされました。
2020年末時点、xAPI仕様は、情報技術における国際標準化団体である「電気電子学会(IEEE)」の「IEEE xAPI ワーキンググループP9274.1.1」のおいて正式に標準化が進められています。(訳者注:2023年10月に、xAPI バージョン 2.0 = IEEE 9274.1.1-2023 としてリリースされた)
xAPI が正式な技術標準として確立されることは、世界中での xAPI の普及と利用を促進することになります。


xAPI 技術詳細

xAPIは、JSON データ形式と RESTful Webサービス API (GET、PUT、POST、DELETEなどのHTTPメソッド) を使用します。

□相互運用性
xAPI はデータの相互運用性を重視して設計されています。
まず、これは、一貫したデータ構造を強制することで実現されます。この構造的な相互運用性により、あらゆるアプリケーションやプラットフォームの様々なソースから学習経験データを統合することが可能になるのです。次に、xAPI はアプリケーション間で学習経験に関する情報をやり取りする際に使用される API 転送方法を標準化することによって、相互運用性を実現します。この準拠の一環として、xAPI はリクエストの形式と期待されるレスポンスを標準化しています。最後に、xAPI は xAPI プロファイルと共有語彙を使用することで、セマンティックな相互運用性を実現します。これにより、異なるシステム間でデータ交換だけでなく、データの意味の解釈も共有できるようになります。

□ステートメント オブジェクト モデル

xAPI ステートメントとは、学習経験に関する構造化されたデータのことです。一つの xAPI ステートメント内には、「actor」(例:学習者),「verb」(例:視聴した,合格した),「object」(例:ビデオ,クイズ)に関するデータに加え、タイムスタンプやコンテキスト情報、結果などの情報が含まれます。

□ラーニング レコード ストア

LRS ( Learning Record Store )とは、xAPI 形式の学習記録の受信・保存・アクセスを行うためのサーバーです。
すべての xAPI ステートメントは LRS によって検証され、保存されます。LRSは LMS 等の一部である場合もあれば、スタンドアロンである場合もあります。LRS はステートメントのフォーマットを検証し、適合するステートメントのみが受け入れられて記録されます。xAPI は分散実装アーキテクチャを採用しています。つまり、単一の LRS で処理するのではなく、相互に通信可能な複数の分散 LRS で xAPI を実装することができます。


LRS の適合性

LRS はすべての xAPI ステートメントを検証するのですから、LRS は xAPI の要であります。 LRS の構築を検討している組織は、xAPI 適合性テストスイートに合格した LRS を使用すべきです。ADL イニシアティブは、この自動テストツールを提供しています。国防総省およびその他の連邦政府機関は、それぞれの調達文書において、「適合LRS」を採用するように推奨されています。


LRS エンドポイント

LRS エンドポイントとは、LRS 内で HTTP リクエストを受け付ける URL のことです。この xAPI 仕様では、以下の 6つのエンドポイントが実装されています。

  • Statement エンドポイント > すべての xAPI ステートメントに使用されます。
  • About Resource エンドポイント > LRSに関するメタデータ(例:xAPI のバージョン、LRS の設定詳細)を返します。
  • Activities エンドポイント > 特定の固有アクティビティに関するメタデータを返します。 「固有のアクティビティ」とは、例えば、それぞれのメタデータにタイトル,説明,使用方法を含んでいる複数のオンラインコースのことです。
  • Agents エンドポイント > 特定のエージェントに関するメタデータを返します。「エージェント」とは、例えば学習者やクラスコホートなどです。
  • 「Document エンドポイント」カテゴリには3つのエンドポイントが含まれます。
    これらのエンドポイントはすべて、ユーザー定義のキーと値のペアで構成されており、通常は特定のシステムに固有のものです。Document エンドポイントは、主に(ローカルの)学習活動プロバイダによって使用されます。 これらのエンドポイントに保存されるデータは、特定の時点の現在の状況を表し、もし、現在の状況が変化した場合には、それらのデータを更新(古いものを置き換える)することができます。
    1. Agent Profile エンドポイントを使用すると、特定のユーザーに関するユニバーサル データ (学習者の使用言語、クローズド キャプションなどのアクセシビリティ設定など) を保存して返すことができます。
    2. Activity プロファイルは、特定のアクティビティに関するユニバーサルデータ(例:最低必要スコア,制限時間,制限時間を超えた場合の動作)を保存し、返すことができます。
    3. State エンドポイントは、特定の学習者のアクティビティの現在の状態に関するデータ(例:ブックマーク,シミュレーションの進行状況,その他の状態変数)を保存し、返すことができます。つまり、State エンドポイントはアクティビティとエージェントの組み合わせに関するデータを保存します。

xAPI プロファイル

xAPI プロファイルは、特定のドメイン(業界や特定領域)における語彙と使用規則のセットです。
このガイドラインを利用することにより、学習記録プロバイダー(LRP) 側と学習記録コンシューマー(LRC)側の双方が xAPI ステートメントに表現されたデータを理解できることになります。 xAPI プロファイルは、セマンティックな相互運用性を確保します。


セキュリティとプライバシー

xAPI では、認証・認可、暗号化、データのスコープ管理などを通じて、情報の安全性を確保する設計がなされています。
各組織は独自にセキュリティ実装を行い、LRS はその中心的役割を担います。
ただし、セキュリティとプライバシーは依然として継続的な研究テーマです。